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超短編ストーリー

最近、超短編ストーリーが流行っていると聞き、ならばちょっと書いてみようかと思いました。昔、群像の新人賞に応募して最終選考で落とされたことがありますが、今考えると落選が当然の駄作でした。

私には全体の構成力がないようです。で、超短編なら書けるようになるかも、と思って、練習開始。こういうのがコモデティ化できるようになればいいなあ、と思っています。

習作 calling



1 作曲家

トイレに入っても今作曲中の曲のことが頭から消えなかった。何かが足りないと思いつつ便座に座ったままウンチが排出される体感に身を委ねていると突然玄関のチャイムがなった。その音が今頭にあった曲にかぶさった。

そう、これだ。まったく異質なその音が加わるだけで曲がまったく新しく生まれ変わる。

彼は腸に残っていたウンチを一気に出し切ってトイレをでた。今の感覚があるうちに曲を完成させねば。それが彼がcallingを受信した瞬間だった。外から来る音を譜面に受け入れる。突然のチャイムの音、鳥が飛び立つ音、隣の子どもの泣き声を譜面に入れていく…

玄関のチャイムに応じるなどということはすっかり頭から抜け落ちてしまっていた…

2 犬

ここではない。なにしろウンチだ。足をあげてちょいとおしっこでマーキングするのとはわけが違う。

彼はいったん中腰になったがその姿勢をやめて違う場所を探し始める。ここぞという場所があるはずだ。あたりの匂いを嗅ぎながら最適の場所を探す。

ここだ、こここそ今日ウンチをするべき場所だ。彼はcallingを受信してその場所を決めた。

真面目くさった顔でその場所で気張る。事を終えると、もはやすべては完了したとばかり後ろ足でその場所に土をかける。そうしてやっと見つけた今日の場所だが、明日は明日のcallingを受け取ることになるのだ。

3 時報
ダイアル117にcall する。

只今午前1時5分10秒をお知らせします…只今午前1時5分15秒をお知らせします…
一方的に伝えられるその断言を聞くことに安心感を覚えて受話器を耳に当て続ける。
すべてが相対化されてしまった空虚の中で、断定してくれるのは時刻を告げる声…只今から午前2時20分20秒をお知らせします

… ジサ…日本では只今… 私は奥歯をかみしめて静かに電話を切った。

4 塾講師

「先生、わたし引っ越すことになったの。だから今日が最後だよ。」授業後の講師室に来た9歳の少女が言った。「こんな年末に?突然?」「うん、パパの会社が倒産したって。引っ越し先は教えてくれないんだけど遠いところだって言ってた」「ふーん」「で、先生、中学生に英語教えてるでしょ。私にも教えて」「… じゃあ、アルファベットだけ覚えてしまおうか」

私は引出しにしまっておいて新しいノートを広げてAと書いた。「エイ、エーじゃないんだよ。」「うん、エイ」

B「ビー、でも唇をいったん止めてから日本語より強く音をだしてね。」「うん、ビー」

C「いいねえ、じゃ次はC。シ―じゃなくてシィーね。オロナミンCはシ―というけどね」「シー」「いや、シィー」「シィー」

D「そう、じゃD、デ―じゃないよ。リポビタンはデーだけどね」「ディー」

E「次はE。口を横に開いていやな奴にイ―ってする感じ」「それ得意!イー」「うまいね、よく男の子にやってるんでしょ。

F「次はちょっと難しい。エフ、フは上の歯で下唇を押さえてから一気に下唇をそとに出す。こういう感じだよ、エ、フ」

「エ…」彼女は上の歯で下唇を押さえたまま凍りついた。下唇を噛んだまま止まっている。しばらくすると目から涙がボロボロとこぼれ落ちた。私は黙ってこぼれ落ちる涙を見ていた。

彼女はにこっと笑って口をもとに戻した。
「大丈夫、言えるよ、エフ」

「うん、そう。日本語では使わない口の使い方だからね。難しいのによくできたね。次に行くよ」
「もういい、今日はここまで覚える。後は新しい先生に習うね。」
「うん、なかなか筋がいいぞ、頑張ったら英語ペラペラになって、外人になっちゃうかもね」
「先生、大好き」じっと目を見る幼い少女に答える言葉もなかった。

「じゃあ、行くね。」
「うん、いつか、またね」
「うん、さびしくなったら心の中で先生呼ぶね、このごろパパとママ仲悪いし」
「うん、その時は心の中で頑張れって返すからね」
ドアを閉めて出ていく彼女を見送りながら、私は思った。
自分は彼女のcallingを聞きとれるのだろうか。


 
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大学はもはや「学問の場」ではない

ツイッターでつまらぬやり取りをした後で大学とは多くの学生にとってどういう場なのだろうと考えました。

少し煽情的なタイトルですが、大学という場所の第一の役割が「学問の場」である時代は終わっているというのが正確なところです。もちろん学問をしたい人にとって学問できる場ではあり続けるべきですが、大多数の学生にとってはもはや「学問の場」でなくなっているのは周知の事実です。実際に勉強、あるいは学問をしたいだけであれば今やネットで世界の様々な授業を受けることは可能ですし、大学という場に通わなくてもネット上でディスカッションを行う事も可能です。

たとえばカーンアカデミ―(http://www.khanacademy.org/)では初等教育から大学レベルの講義まで2000以上のビデオを無料で見ることができます。学習ごとにステップを分けているのでとても利用しやすいです。

ハーバード大とMITはインターネット経由で無料で教育を受けられる「edX」https://www.edx.org/を共同で発表しました。オンライン教育システムで、ビデオ講義、クイズ、生徒からのリアルタイムナフィードバック、Q&Aのランキングなどの機能を備えています。

スタンフォード大もコンピュータサイエンスについての授業を今秋から無料公開します。あるいは、スタンフォード大学の2人のコンピュータ科学者が今年立ち上げた教育ベンチャー「コーセラ」。スタンフォードだけでなくプリンストン大学やコロンビア大学などで教える世界トップクラスの講師陣による講義を無償で提供するコーセラは、開校後1年足らずで170万人以上の受講者を世界中から集めています。日本の大学でも東大京大阪大早慶など多くの大学の授業はOCW(オープンコースウエア)で無料で見ることができます。http://https://www.coursera.org/
 
このような環境が整っている以上、ただ勉強をやりたい、講義を受けたいというのであれば大学という場に通う必要はほとんどなくなりつつある、と言えるでしょう。もちろんゼミなどで指導教官について少人数で顔の見える形で教育を受けるというような今のところネットではなしえない教育もありますが。

勉強できる環境である大学にいても、強制されなければ勉強などはしないだろうというのが一般の学生です。学問などはそもそも暇人が趣味で行なう、好きだから行うというもので多くの人に強制するような種類のものではありません。無駄であろうが、意味がなかろうが研究するのが好きという人は学門の道に進めばよいわけで、現状の大学で大多数の学生にそれを勧めるというのはナンセンスだと思います。そうなると大学で学生に強制すべき授業は何か、とうことになります。
 
そこでいわゆるキャリア教育という話がでてくるのですが、大学を就職予備校と位置付けてしまうのは勿体ない話です。半端に身に付けた技術などはすぐに更新されてしまうものですし、せっかく大学という場に属していながら就職の準備、というのでは専門学校にしてしまうほうがよいだろうという事になってしまいます。実際、そういう大学はいくつかありますし、就職率を売りものにしているようです。しかし、就職するために技術が必要ならば大学以外の場で、学生がどこかの企業を調べるなり、インターンに行ってみるなりして個人で身につけるものべきでしょう。
 
そして、実際に個人が価値を高めることがが必要な時代になってきています。何もできない大学生を採用して1から教育する、というのは一部の大企業のような余裕のある企業でないとなかなかできません。就職ということを考えれば、それぞれ個人が自分の価値を高める必要性があるのです。大学卒業というレッテル以外に価値を持ちえない人間が人に雇ってもらおう、つまりはお金を自分に払わせようというのはこれからの社会ではますます通じにくくなっていくでしょう。ただし、自分をコモディティ化してしまうのは避けた方がいいでしょう。変化に対応できるしなやかさを失うことで自分を固定した部品にすることになってしまいます。
 
たとえば、イギリスではインターン経験のあるものを優先して就職させますが、インターンをするというのはその間給料なしで働くということですから経済的余力がなければ難しい話で、そうなるとそもそも経済的余裕のある人しか職を得るのが難しいというのが現状です。日本ではまだそこまで厳しくありませんが、ますますグローバル化していく社会の中で仕事を得たいと思えば、日本国内の新卒生だけを競争相手にしていればいいというわけではなくなっていくでしょう。そうした中で自分の価値を売り込まなければならないわけです。
 
いわゆる就活で成功したいのならば大学時代に学内外での経験を通じて自分の価値を高めていく必要があるでしょう。これは資格のことではありませんし、就活で語るための特殊な経験づくりでもありません。資格を取りまくったり、就活で有利になるように目立つ体験をしようとする大学生も多くいるようですが、そういう事が求められているのではないのです。深く読書をした経験、人とぶつかりながら共に何かを成し遂げた経験、運動や芸術に深くのめりこんだ中で得られた経験、そういったことを通じて自分の中で得たものを仕事というそれとは異なる環境で生かせる力、それを相手に感じさせる力こそが必要なのでしょう。

ワークライフバランスの重要性があちらこちらで言われていますし、私自身それは重要なことだとは思いますが、寝食を忘れるほど仕事に一生懸命になる時期は必要でしょう。学生時代には仕事はありませんが、学生時代こそ学問であれ、他の事であれ、全力を何かに傾けることがやりやすい環境なのです。そしてそういう経験は自分の中の力として蓄積されていきます。
 
大学という場をどうとらえるかという本題に戻ります。
 
まず授業のレベルで今の学生に教えるべき最重要事項はリベラルアーツ(一般教養)でしょう。教養とは単に様々な分野の知識のことではなく、様々な分野の知識を得ることで自分を社会の中に位置づけることができるようになることだと私は考えています。政治・経済・歴史や地理の分野、哲学や文学や芸術の分野。生物や物理化学の分野、そうした広範囲な知識が自分と社会を位置づけるのを助けるようにすることです。これは大学の授業として強制的に学生にやらせる価値があると思います。ハーバードなどアメリカのトップ大学では文系も理系もなく初めの2年間はリベラルアートと論文の書き方を徹底的に指導されます。論文の書き方の指導は非常に丁寧でロジックが合わない部分など徹底的に修正されている答案を見せてもらったことがあります。
 
先日津田大介さんとの対談中にこう聞かれました。「西先生は大学で教えるのであれば何を教えたいですか」  私は「作文かなあ。あるときは絵画や音楽、あるときは政治経済、あるときは哲学、文学や漫画のようなテーマを出してその場で書かせる。1週間ネットなどで調べる時間を与えて同じ題でもう1度書かせる、というような」という趣旨の返答をしました。そういう対人性の高い教養教育が今の大学生にとって必要な授業なのではないか、と私は思っています。そういう授業させてくれる大学ないかなあ。
 
次に場としての大学の意味。これは何と言っても人と出会えることにあります。以前H-labという団体を作った小林亮介君と話したときのこと。(H-labとはハーバード大の学生を日本によんで、海外留学や海外の大学に行きたい高校生たちと夏に合宿を行なっている団体です。私も合宿に顔を出したことがあります。http://hcji-lab.org/) 

彼は高校から一ツ橋大学に入学するもその年からハーバードに留学したのですが、そのハーバードでの初回の授業で、こういうようなことを言われたそうです。

「君たちの今年一年の目標は一生付き合える仲間、友達を何人か見つけることだ。ここにはそれに値する人材が大勢いる」

確かにハーバードでは1年生でも年齢層が様々だし国籍も多様でその中で友人を見つけることは自分を大きく変化させることにもなるでしょう。東大とハーバード大の比較雉はこちらにあります。http://t.co/F99kwu1u

仲間を見つける、人に触発される、これは今、日本に大学という場が必要な理由の一つとなると思います。確かに日本の大学だと多様性は小さいでしょうが、大学生という身分は学内に限らず様々な人と会うのに非常に有利です。これだけネットが普及し誰とでも連絡が取れる時代ですから大学生という身分を使って興味ある人間には会ってみるとよいでしょう。
 
以上、まとめると、現在は学問や講義を受けるという点ではネット環境さえあれば通常の大学に通う以上のものを無料で受け取ることができる時代である。そこで、今、大学で第一に行なうべき講義は対人性の高い教養教育である。さらに、大学という場は学問の場として一義的に定義するべきではなく、自分の価値を高めたり、人と出会ったりできる場としても機能する場である。また、寝食を忘れて何かに打ち込むことが可能な時期でもありそういう経験は自分の価値を高めることになる。また、大学卒の身分を利用して就職したいのであればそれなりに自分の価値を高めておく必要がある。もちろん大学生としてこれこれの分野は徹底して学んだということも自分の価値になります。相変わらず当たり前の結論ですね。
 
大学一般について述べてきましたが、日本での就職に有利かどうかということになれば大学のレッテルは未だに非常に有効であることは付け足しておきましょう。何年も浪人して有名大学に行くのは割に合うのかという記事を紹介しておきます。http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20130131/243113/?rt=nocnt
プロフィール

西きょうじ

Author:西きょうじ
予備校講師歴も30年以上になりました。いろいろなことがありましたが、様々な方向へと越境しつつ自分を更新していきたいと思っています。

参考書「英文読解入門基本はここだ」「ポレポレ英文読解プロセス50」「情報構造で読む英語長文」「リーディング&ボキャブラリー」「英文速読のナビゲーター」「英文の核」「英文法の核問題演習編」
一般書「踊らされるな、自ら踊れ」「越境へ」(共著)「仕事のエッセンス」「そもそも」「星の王子様さまを英語で読もう」

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