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BORDERS (1)

先日、Rm311 crossing the bordersというイベントに行ってきました。参加者は10名あまり、こじんまりとした空間で舞踏者の吉本大輔氏、韓国の劇作家・演出家のイ・ジェサン氏のトークから始まりました。吉本氏が5分ほどやって見せてくれたパフォーマンスは、とても印象的で「これが70歳を過ぎた人間の動きか」と驚嘆しました。5月26日から28日に神奈川芸術劇場で「Node/ 砂漠の老人」というパフォーマンスが行なわれます。ユーチューブで吉本大輔を検索すると驚くべきパフォーマンスがたくさん出てきます。是非ご覧になってみてください。

http://www.youtube.com/watch?v=bRc-EZWRmH8

このイベントについてはまずcrossing the bordersというテーマに惹きつけられました。現在出版予定の津田大介氏との対談本のテーマ(初めから何かを決めていたのではなく話していくうちにだんだんテーマが出てきたのですが)の一つが「越境」であり、最近読んでとても面白かった本が「なめらかな社会とその敵」(カール・ポパーの「開かれた社会とその敵」をアレンジしたタイトルもよい)だったからです。

なめらかな社会とその敵


ということで、ボーダーについて、またボーダーレスについて考えてみます。6月30日に行なう京都の講演会では「borders 様々なボーダーと越境、そしてしなやかな浸透性のあるボーダー形成へ」といった話をする予定です。

さて、そのイベントではトークの後、歓談タイムがあったのですが、これは大学生のコンパのあとの2次会でありがちなグダグダな感じで、良い発言もあったのですが話はまとまりもなく流れていき、生産性のないものになってしまっていたので、私は発言するというよりは周囲の発言を聞きながら自分なりに思考を進め、そのメモをとっていました。今回はそのメモを簡単にまとめてみました。

まず、生命にとってボーダー(境界線)は必要不可欠です。生物は細胞からできており、細胞は細胞膜によって外部と隔てられて内部は保護されています。人間も皮膚という薄い柔軟な膜によって外部から守られています。

タマホコリカビなどは単細胞でありながら時期によってそれらが集合して一つの個体を形成し、またその後、単細胞に分かれます。(1時間に1ミリくらいしか動きませんが動画で見るとかなり面白い)これを見たときには個体という概念が揺らぎましたが、集合体になっていてもやはりその外部とはきちんと隔てられています。外部と内部を隔てる膜の存在がなければ生命は存在しえないのです。

http://www.youtube.com/watch?v=518MhtVBJho

コミュニティにおいてもその独自性を維持するためには外部と内部を隔てるなんらかのボーダーが必要なことは言うまでもありません。

社会における規範のボーダーもまた社会の内部を保護するためには必要でしょう。ルールの問題だとも考えられます。つまり「それ以上やったらダメ」というボーダーがあって社会の内部は保護されるということです。

イベントでの歓談タイムの時に、某大臣の秘書であった方がこのような発言をしました。ルールを破壊するものは英雄視されることがあるがルールを作る側のものが英雄視されることはない。しかしそれは同等に必要な役割なのだ、と。とても当たり前のことなのですが、左翼(一部のマルクス主義者)と昔呼ばれた人たちの遺影はまだ残っていて、権威・権力に逆らうこと、ルールを逸脱することを称賛したがる風潮は依然根強いようです。しかしそれは幼いヒロイズムとも言うべき心性であり、更新され続けるべきものではあるにせよ社会秩序のためにルールが不可欠でありそれを守る必要があることは当たり前のことです。

ところが、問題はそのボーダー(境界)あるいはルールが政治的、権力的なものにならざるを得ないという現状です。さらにはボーダーが本来実在するものではなく情報(教育)によって作りあげられるものだとも考えられるということです。そもそも社会のありかた、ということ自体が虚構だともいえるでしょう。(ベネディクトアンダーソン「想像の共同体」とアーネストゲルナ-「民族とナショナリズム」は、いまや時代と合わなくなっている部分も多く見られますが、ボーダーを考える際のベースとしておくとよいでしょう。 さらに読めればアマルティア・セン「暴力とアイデンテティ」もお薦めです)

想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行 (ネットワークの社会科学シリーズ)


民族とナショナリズム


アイデンティティと暴力: 運命は幻想である

実際、客観的に正しいボーダー設定などは原理的に不可能です。ですからそのボーダーがどの程度の正当性を持ちうるかということが問題になります。そしてその正当性を誰が判断しうるのかということも考える必要があります。もしくはその不当性(結果的にどれだけの人がどういう被害を受けそれが不当なボーダーによるものであるか)から考えるほうがよいのかもしれません。

このブログでは国境そのものについての議論ではなく、暴力的なボーダーレスと自らを守るための過剰なボーダーについて触れておきます。

ボーダーレスに向かう方向性、つまりグローバル化されつつある中で世界のフラット化が進行している流れは必然的な流れといえるかもしれません。しかし、急激な変化は必ず弊害をもたらすものです。その急激な変化が一部の人間の作為である場合にはとりわけ危険です。

極端な例をあげると先日「ユニクロ」を展開するファストリテイリングの柳井正会長兼社長が世界統一賃金を導入すると発表して物議を醸しています。日本で採用された社員も外国人の社員と同じ基準で評価されるようになる。そしてそれに伴って将来的に、年収が1億円か100万円に分かれ中間層はいなくなるなどという極端な二極化が進むことになるだろうというものです。

世界の物価水準が同一でない以上これは暴論であると思いますが、少なくともスキルや学力の評価が国境を越えていく分野が増えていくことにはなるでしょうし、若い人はそれに備える必要はあるでしょう。もはやどこの会社に所属しているとか、有名大学を卒業したなどということがそれ自体では意味を失っていくことになっていくでしょうから、帰属によらない自分の価値を作っていくことが重要になってきます。

しかしこの国境を越えた世界のフラット化が過度に急速に進行してしまうと固有の文化の喪失を伴うことになります。これは今世界の言語が急速に失われていっていることにも表れています。特に世界の言語の9割以上を占める文字を持たない言語の滅亡は急速になっています。言語が失われると文化も失われていきます。生物多様性同様に文化の多様性も不可欠なものだと思われますが、今失われつつある文化が持っている価値に気づく最後の時期なのかもしれません。そのあたりは「声の文化と文字の文化」を読むと、文字のない文化だからこそありえた教典や文学についても言及されています。なによりその思考体系の違いが面白いです。

声の文化と文字の文化

脱線しますが、そういう点では「ピダハン」もとてもスリリングな本です。アマゾンの民族にキリスト教の伝道に行った言語学者でもある伝道師ダニエルのフィールドワーク、最後にはダニエルがキリスト教的なものに懐疑心を抱き「今、ここ」にのみ生きるピダハンの側に教化されてしまうという実に面白いフィールドワークです。

ピダハン―― 「言語本能」を超える文化と世界観

話を戻します。さらには急激なグローバル化は多数の人の生活を破壊することにもつながりかねません。先の柳井氏の言葉でいうと、自らの会社の社員を日本の物価水準での年収100万円にしてしまう(彼の言葉で言うとGrow or die「成長、変化しろ、さもなくば死ね」)。このように大多数の人間を切り捨ててしまうことが企業の利潤追求のためだけに行なわれ、それが正当化されてしまうのは社会にとってとてもまずいことだと思います。

世界同一基準で能力と賃金だけから判断すると、おそらく大多数の日本人は切り捨てられることになるでしょう。もちろん簡単には切り捨てられないだけの価値を持つ人間が多く生まれることは望ましいですし、若い人にはそれを目指してほしいとは思いますが、現実問題として、そうもいかない人が多いだろうと思います。それらの人々に「死ね」というならば日本社会は成り立たなくなるでしょう。そういった競争に巻き込まれない場(国内のみしか対象にしなくてよい職など)を見つけるという手もありますが、自分でそのように考えて自分の居場所を見つけられる人はおそらく競争にも勝てる人なのだと思います。(そういう例としては「ナリワイを作る」という方法もあります。)ですから柳井氏は大多数の社員に「死ね」と言っているようなものです。…私はそういう社長のもとで働きたくないなあ…

ナリワイをつくる:人生を盗まれない働き方


おそらく今の段階でのTPP参加も同様なことなのだろうと私は考えています。

以上、まずは急速なボーダーレス化に伴う危険の話でした。

次に、旧来のボーダーによる弊害を除いていく必要性、さらには自己防衛のための過剰なボーダー設定とそのようなボーダーを越境する必要性について。そして新たなボーダーを形成していくことについて。ここからが本題とも言えるのですが、それは今後のブログで書いていくことにします。
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プロフィール

西きょうじ

Author:西きょうじ
予備校講師歴も30年以上になりました。いろいろなことがありましたが、様々な方向へと越境しつつ自分を更新していきたいと思っています。

参考書「英文読解入門基本はここだ」「ポレポレ英文読解プロセス50」「情報構造で読む英語長文」「リーディング&ボキャブラリー」「英文速読のナビゲーター」「英文の核」「英文法の核問題演習編」
一般書「踊らされるな、自ら踊れ」「越境へ」(共著)「仕事のエッセンス」「そもそも」「星の王子様さまを英語で読もう」

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