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サントリーホールのフレディ・ケンプリサイタル

3月2日フレディ・ケンプのリサイタルに行ってきました。1977年生まれ、イギリスのピアニストで、ドイツ人の父親はヴィルヘルム・ケンプの親族と言われています。母親は日本人で、彼も少し日本語が話せるようで、アンコールのときに「残念ながら次もショパンです」とか言ってとてもチャーミングでした。

前半はJ.S.バッハ「ゴルドベルグ変奏曲」。この曲は私にとっては、グレン・グールドの演奏がどうしても頭から離れない曲です。多分2000回以上は聴いていると思います。グールドは1955年にこれをレコーディングし、26年後1981年にもレコーディングしており、まったく異なる演奏となっていてどちらも名盤です。3枚組で両方の録音とさらにDisc3としてグールドとティム・ペイジが新録音について対話しているというものもあってお勧めです。

で、ケンプのゴルドベルグ。ゆっくりしたアリアから始まりました。静かに思索が始まるような出だしでした。なり終わった音はゆっくり過去へと流れていきます。次の音は余韻の中でゆっくりと立ち上がってきます。

反復部からは、装飾音の部分をやや強く響かせ不協な響きを表しつつ変化を予兆します。

第1変奏に入ると一気に祝祭が始まります。私は二列目で見ていたのですが、鍵盤をたたく指が、鏡面仕上げの板にきれいに映っていて指の動きがよく見えました。のってくると体全体を使って演奏し始め、ペダルを踏む音がバンバンと響き渡ります。ロックまで演奏したことがある(ジェネシスの曲)だけあってリズム感あふれる即興。おそらくミスタッチと思われる音やピアノのバランスがなにか微妙にずれているのではないかと思われる部分もありますが、そんなことはものともせずにハイテンションで進んでいきます。

途中、一息ついて静かな25変奏に入っていきます。内省的というか、再び深みにもぐっていくというか哲学的なものを感じさせます。ちょっとタッチが弱すぎるようにも思いました。隣の男性客は眠り始めています。それはそれでよいのでしょう。

最後に祈りのようなアリアに戻り、深い余韻を残したときには演奏から80分くらい経っていました。全体の構成が見事だったのでしょう、どの瞬間にも緩みはなく、一つの作品として完結したものが、感じ取れました。

Piano Sonatas Pathetique/Moonlight - 21 世紀版「ケンプの3大ソナタ」 [Import]Piano Sonatas Pathetique/Moonlight - 21 世紀版「ケンプの3大ソナタ」 [Import]
(2005/02/28)
不明

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休憩をはさんで、後半はいきなりリストです。リゴレット(演奏会用パラフレーズ)からイゾルデ~愛の死、さらにハンガリー狂詩曲。このラプソディーの6番ではロック(岩石)を投げつけるかのようなパワフルな演奏を見せてくれました。力強い疾走感、楽しい、楽しい、ニコニコしながら体全体で聴きました。

舞台を去っていくその歩き方がとてもかわいい。少年が大きく腕を振って歩いているようなピョンピョンというリズムで歩きます。

アンコールはショパンのノクターン。舞台を去り、戻ってくると、先のように「残念ですが、またショパンです」と日本語で紹介してショパンのノクターン変ホ長調作品9-2がはじまりました。

おそらく、指が鍵盤を抑える圧力と音から音へ移る時間が完全に私と呼応したのでしょう。おそらくほんの少しのずれもないほどにつながったのだと思います。もう少し圧力が強くても弱くても、ペースが早くても遅くても同じことにはならなかったと思います。感動したとかいう感情もなくただ涙が流れていました。とても有名な抒情的な音楽で、いまさらノクターンに感動するほどロマンティストではない、はずだったのですが…
なんだったんでしょうね。

最後のアンコールはブラームスのワルツ15番&16番 このときはなんだか遠くから音が聞こえているような感じでした。

録音とライブのちがいは圧倒的なものです。今生きているということ、今ここにいるということの一回性、音が現れては消えていくという一回性、場に対する身体的呼応、つまり聴覚以外の感覚もすべて使ってその時その場にいるということ。

同じことは二度と繰り返されないのだということ。
今ここでしか生じえない体感。
人は現場でこそ生を実感するものなのですね。
 
当たり前のことですが・・・
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プロフィール

西きょうじ

Author:西きょうじ
予備校講師歴も30年以上になりました。いろいろなことがありましたが、様々な方向へと越境しつつ自分を更新していきたいと思っています。

参考書「英文読解入門基本はここだ」「ポレポレ英文読解プロセス50」「情報構造で読む英語長文」「リーディング&ボキャブラリー」「英文速読のナビゲーター」「英文の核」「英文法の核問題演習編」
一般書「踊らされるな、自ら踊れ」「越境へ」(共著)「仕事のエッセンス」「そもそも」「星の王子様さまを英語で読もう」

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