FC2ブログ

佐々木俊尚・小野美由紀トーク

2018年5月8日 at 八重洲ブックセンター
佐々木俊尚さん小野美由紀さんのトークに行ってきました。それぞれの著書「広く弱くつながって生きる」「メゾン刻の湯」の出版記念ということでしたが、「広く弱くつながって生きる」を読み終えていましたが、当日2時間前に行って「メゾン刻の湯」を購入してトークまでに読み終える予定でしたが、結局読み終わらない状態でトークが始まりました。早くに行ったので一番前の席で聞くことができました。

「広く」については、まさしくタイトル通りの内容なのですが、佐々木さんの説明はとてもシンプルでわかりやすいものでした。
まず、自己啓発書などにある「自己ブランディング」というのは、今の社会ではごく一部の人をのぞくと厳しいのではないか、と。私も「そもそも」で成功は運の要素が大きいと繰り返し書きましたが、社会的成功者のまねをしても成功する確率は極めて低いでしょう。従来の強いつながりの中で自己を中心において生きるのというはかなり消耗するだろうと思います。強いつながりというのはムラ、会社、家族といったシステム内のみに自分を位置づけるときに生じがちです。高度成長期の戦略としてはそれが妥当だったでしょうが、人口動態、社会経済状況からすると、現在は居場所としての中間共同体が喪失されつつある時代なのだと思います。

そこで、FBや地域の集まりなどを利用して、横のつながりを築いていくことでセーフティネットを複数持つような生き方の方が合理的なのではないか、というように展開していきます。私も「居場所」「複数の居場所」を「そもそも」でテーマとして扱っているので共感するところが大きかったです。居場所を一つにしてしまうとリスクヘッジができないですし、逃げ場がないと思うことで閉塞しがちです。

私の考えでは、高度成長期的価値観= 帰属意識が強い一つの居場所 縦のつながりと同調圧力 所有 ⇒ 
現在芽生えつつある価値観 =帰属意識が弱い複数の居場所 横のつながりと多様性の受容 シェア
ということになります。

弱いつながりの1例としてシェアハウスが挙げられます。そこで「メゾン」の話になります。これは昔ながらの銭湯に同居する若者たちのストーリーです。小野さん自身が、まれびとハウスに住んでいたということでした。私の生徒たちも住んでいたことがあり、住むだけでなく対話の場としても活用できるようです。生徒が住んでいるときに一度とのぞきに行こうと思っていましたが、あいにく行くことができないままになっています。いずれ行きたいと思っています。

「メゾン」では様々なタイプの若者が同居していてそれぞれにそれぞれのことをしながらも、時に共通の課題が生じともに解決しようとしていきます。それぞれの居場所を見つけようとしながら、とりあえず銭湯が心の居場所になっているというところから話が展開していきます。ネタバレになるので内容には言及しませんが、ストーリーとして非常に面白いです。不登校や認知症といったテーマ、宗教と親子関係(私は映画「息衝く」を思い出しました)も扱っています。シェアエコノミーについては私のサロンでもテーマとして話し合いましたが、やはり若い世代のほうが抵抗なく受け入れられるようで、所有からシェアへというのは、これからの時代が向かう方向なのだろうと思います。

ただ現実問題として抵抗勢力は小さくありません。高度成長期の価値観を若者に押しつけようとするおじさんたちはまだまだ元気ですし、「道徳」の教科化といった政治的圧力もあります。佐々木さんは3拠点生活を行っており、私も25年くらい軽井沢と東京の②拠点で生活していますが、田舎では町内会的なしばりから逃れることは難しいですし、むしろその中で役割を果たさないと生活しにくということもあります。その環境を味わいインフラを使わせてもらっているわけですから当然ではありますが、そこでのつながりはなかなか自分の望む濃度にはなりにくいものです。資本主義経済のひずみが顕在化しつつある格差社会、また高齢化社会の中で、時代の大きな流れと抵抗勢力のバランスの中で自分なりの生き方を選んでいくことなのだろうなと思います。でも弱いつながりを複数持つのはやってみれば思うほど大変なことでもないでしょう。少し、目を外に向け、ちょっと動いてみればいいだけのことで見つかるものなのかもしれません。

対談lの中で面白かったのは、小野さんがマッチングサイトにはまっているという話でした。出会いのアウトソーシングは確かに合理的だし、恋愛よりは結婚をしたいという生存戦略を求める人がいるというのもとても納得できました。

あとは、最前列に居た方が、多様性は認めるが自分はゲイに好かれても気持ち悪いと言い放ったのに対して、小野さんがキレかけているのにとても共感しました。「あー、もやもやする、この話で2時間は話せる!」と小野さんが叫んで終わったトークでした。こんな終わり方はじめて見た。このオヤジは「ムーンライト」でも気持ち悪いというのかなあ、「君の名前でぼくを呼んで」を見ても拒絶してしまうのだろうなあ、もったいない! しかし、ともあれ、そういうことをわざわざ人前で発言する、というのはさすがに糾弾されてしかるべきだろうと思いました。

あと、「メゾン」ですが、私は実はストーリー以上に文章表現に圧倒されました。
「誰かと一緒に見た刹那の美しい景色が、人を、ずっとずっとその先も、活かしはしまいか、と僕は思う。」 
この読点の感じがとてもいいなあ。
「敏感で柔らかな指先を、他者に向かって伸ばすこと、それが、僕にとっての希望なのだ。」
私はこれと同様のことを書くのに「そもそも」では理屈っぽくぐだぐだ書いて1ページくらい使ってしまいました。「敏感で柔らかな指先」かあ。私にはこういう表現を作り出す感性がないのだろうなあ。残念だけど、自分は自分の文体でいくしかないのだろう。せめて感性をしなやかにするために今週末は山に行ってこよう。久しぶりに様々なコケ(苔)さんたちと会話してきます。




関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

No title

三島由紀夫は人は何かに執着すればする程、そのものが手の内から離れていくと言っていました。確かにそうかもしれない。
人の考え方や居場所も同様で、一つの考え方に、場所に、固執しない方が幅が広がり奥ゆかしさも増すのかもしれない。
今回の先生の文章は穏やかな語り口で読みやすかったです。紹介して頂いた本は時間がある時に読んでみます。
山登り、お気をつけて。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Re: No title

ご心配ありがとう。大丈夫です。今年度は今のところほとんど東京にいるのです。あと、ブログのコメントは見る頻度が少ないので、FBでフォローしていただければメッセンジャーでやりとりしやすくなります。
> 先生、大丈夫ですか?
> 長野で大きな地震があったのを夕方のニュースで知って、心配になってメールしました。1週間くらい余震など様子を見た方が良いそうです。山登りに行くとおっしゃっていたから大丈夫かしら?気をつけて下さいね。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

No title

"広く弱く---"の中で、”歴史書には不安解消の効果も”の節がありますね。
歴史探偵の気分になれるウェブ小説を知ってますか。 グーグルやスマホで「北円堂の秘密」とネット検索するとヒットし、小一時間で読めます。北円堂は古都奈良・興福寺の八角円堂です。 その1からラストまで無料です。夢殿と同じ八角形の北円堂を知らない人が多いですね。順に読めば歴史の扉が開き感動に包まれます。重複、 既読ならご免なさい。お仕事のリフレッシュや脳トレにも最適です。物語が観光地に絡むと興味が倍増します。平城京遷都を主導した聖武天皇の外祖父が登場します。古代の政治家の小説です。気が向いたらお読み下さいませ。(奈良のはじまりの歴史は面白いです。日本史の要ですね。)

読み通すには一頑張りが必要かも。
読めば日本史の盲点に気付くでしょう。
ネット小説も面白いです。

Re: No title

ありがとうございます。読んでみます。
> "広く弱く---"の中で、”歴史書には不安解消の効果も”の節がありますね。
> 歴史探偵の気分になれるウェブ小説を知ってますか。 グーグルやスマホで「北円堂の秘密」とネット検索するとヒットし、小一時間で読めます。北円堂は古都奈良・興福寺の八角円堂です。 その1からラストまで無料です。夢殿と同じ八角形の北円堂を知らない人が多いですね。順に読めば歴史の扉が開き感動に包まれます。重複、 既読ならご免なさい。お仕事のリフレッシュや脳トレにも最適です。物語が観光地に絡むと興味が倍増します。平城京遷都を主導した聖武天皇の外祖父が登場します。古代の政治家の小説です。気が向いたらお読み下さいませ。(奈良のはじまりの歴史は面白いです。日本史の要ですね。)
>
> 読み通すには一頑張りが必要かも。
> 読めば日本史の盲点に気付くでしょう。
> ネット小説も面白いです。

プロフィール

西きょうじ

Author:西きょうじ
予備校講師歴も30年以上になりました。いろいろなことがありましたが、様々な方向へと越境しつつ自分を更新していきたいと思っています。

参考書「英文読解入門基本はここだ」「ポレポレ英文読解プロセス50」「情報構造で読む英語長文」「リーディング&ボキャブラリー」「英文速読のナビゲーター」「英文の核」「英文法の核問題演習編」
一般書「踊らされるな、自ら踊れ」「越境へ」(共著)「仕事のエッセンス」「そもそも」「星の王子様さまを英語で読もう」

カテゴリ
月別アーカイブ
Twitter
 
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QR